『明治林業逸史』の復刻版刊行について

2009年4月18日
大貫 仁人

 この度、大日本山林会編『明治林業逸史』(昭和6年5月発行)を、平成20年度の当会「文献センター基金」事業の一環として、復刻印刷し刊行致しました。

  • 復刻版『明治林業逸史』
    復刻版『明治林業逸史』
  • 伏見宮貞愛親王殿下
    初代総裁
    伏見宮貞愛親王殿下
  • 梨本宮守正王の書
    第二代総裁
    梨本宮守正王の書

 ご存じのように明治時代は日本の全ての分野で近代化が推し進められた時代です。日本の近代林業についても、西洋林学が導入され、わが国林業が緒に就き著しく進歩を成し遂げたのも明治時代です。
 明治維新以降の近代史の分野で、林業に関してまとめられた文献として、主要なものは松波秀実著『明治林業史要』(大日本山林会発行、大正9年)、農林省『農林行政史』・第五巻上下、農林水産省百周年記念事業『農林水産省百年史』(林政編、昭和54年)、農林省林野庁『日本林業発達史 上』(昭和35年)があります。これらは行政史や産業史に関する正史であり貴重なものです。これら正史(表面的な事柄)を理解する上では、逸史(時代の裏面に隠された事実)は極めて有用であることから、『明治林業逸史』が当大日本山林会から昭和6年5月に刊行されました。
 ところが、同書は、太平洋戦争での東京大空襲の大戦火(昭和20年5月28日)で三会堂の建物が烏有に帰し、その時に本会の在庫および蔵書もすべて消失してしまいました。現在、当会の文献センターに収蔵しているものは寄贈を受けた1冊のみで、保存状態も劣化著しく、一般の閲覧に供し続ければ更に劣悪化することが心配されました。また、古本屋からも入手困難な状況であることから、また、当会が刊行した責任もあることを踏まえ、世の中からの消失を心配して復刻刊行しておくことしたわけです。

『明治林業逸史』の一頁
『明治林業逸史』の一頁

同書は、『明治林業逸史』と『明治林業逸史 続編』の2巻からなり、第1巻には、逸史的な事項(後世に残しておかねばならぬとして集められた数多くの事実)が林政、林業教育、森林管理、国有林野、御料林野、民間林業、木材工業、林産製造、木材商業、植民地林業、林業の会団等々の目次立てで纏められ、第2巻には、林業回顧座談会、34名による逸話、明治年間海外林業視察並留学者一覧、明治林業編年史が掲載されています。逸史として旨くまとめられていて、内容も大変興味あるものとなっています。
 すでに、復刻版は林野庁、都道府県林政・普及担当課、林業関連大学図書館等に配布致しました。当会の林業文献センターにも所蔵しておりますので、どうぞ御気楽にお立ち寄り下さい。また、この他に「文献センター叢書シリーズ」として発行した、『島田錦蔵博士遺稿集』(平成6年)、『小林準一郎翁選集』(平成8年)、『日本木炭文化史(増田荘一著)』(平成9年)、『校正大日本植物帯調査報告書・同図表(田中壤著)』(復刻刊行、平成10年)、『手束平三郎選集』(平成17年)も文献センターで閲覧いただけます。さらに、文献センターの利用の便宜を図るためCD-ROM版「林業文献センター収蔵文献・検索システム」を作成し広く配布しておりますのでどうぞご利用下さい。

平成21年4月 会長 大貫仁人