歴史に学ぶ

2004年8月9日
小林 富士雄

 日本森林技術協会の機関誌「林業技術」7月号に掲載された拙著「松野礀とクララ夫人」に予想外の反響があり、驚きもし、嬉しく思いました。なにせ古い話でもあり、近頃のせわしい風潮から、このような反応があるとは予想しませんでした。
 松野はざまは我が国の「近代林学の祖」でありまた「近代林政の先駆者」でもありますが、林業界では知る人ぞ知るという、言い換えれば広く知られているとはいえません。この記事を書くきっかけは松野はざまのひい孫が独逸から遙々墓参にきたことにありますが、もともとこの先人を広く知ってもらいたいとと思っていました。そのため氏が明治維新早々という時期に足かけ6年留学した、ベルリン郊外のエ-ベルスワルデ高等森林専門学校を訪ねたこともあります。
 松野はざまのことは直接間接に教えをうけた人々が、著書や「山林」誌に書き残していますが、クララ夫人のことは独逸人であるという以外、格別の知識はありませんでした。このたびの機会を通じ、日本における「幼稚園教育の先駆者」として大きな足跡を残していることを知りまさに蒙を啓かれる思いでした。
 松野はざまもクララのことを調べているうちに私は明治という時代から多くのことを学びました。一言に尽くすならば、この時代は人々とくに若者がこの国の将来についての「志」を抱いていたということです。当時としては海のものとも山のものとも分からない林学を生涯の仕事として選び、断固これをやり抜いた松野はざまという人からも、また帰国後の彼を支援した木戸孝允、大久保利通など明治の大立者からも、その時代の「志」がひしひしと伝わってきました。これこそが「歴史に学ぶ」醍醐味でした。

2004年8月 小林富士雄